里山に新たな歴史を刻む家

先祖代々村での暮らしを営んできた家族を、不意に脅かした天災。
一家の主はもとの暮らしを取り戻すため、
意を決して建築家の門を叩いた。
安らかであたたかく、
「今の時代と家族の暮らしにフィットした住まい」を求めて。


　里山に寄り添うように、のどかな農村の景色が広がる小川村。ここで先祖代々耕してきた田畑を守り、三間続きの座敷をもつ大きな家に暮らしていたOさん家族は、2014年11月に発生した震度6弱の地震によって、突如その営みを壊されてしまった。
「うちは座敷が並ぶ壁の少ない構造のせいか被害が大きく、修復も難しい状態でした」とOさん。家を失った悲しみは想像するに余りあるが、Oさんと奥様は一刻も早く家族の居場所を再建するため、東奔西走の日々を始めた。
「どうせ新築するなら、古くて不便だったところを改善していい家にしようと。でも予算や工期など課題は山積みだし、私たちの大事にしたいものを理解してくれるところがなくて。行き詰まった時に雑誌で見つけたのが、T―PLANアーキテクトの家でした」 　
　シンプルながらも主張のある造形を一目で気に入った夫妻は、さっそく同社の事務所を訪問。「雪深い冬でも暖かく、家族が暮らしやすい家を」という夫妻の思いを聞いた代表の祢津さんは、解体前の家にも足を運び、以前の建坪の半分にサイズダウンしたプランを提案した。
「大家族で生活していた昔と違い、光熱費などのランニングコストや家事のしやすさ、将来設計を考えると、Oさんの家のサイズは35坪前後が合理的。ずっと守ってきた仏壇や神棚、えびす棚という伝統は尊重しながら、〝今、この家で暮らす人〟を優先して設計しました」と祢津さん。