小さな木の家計画、始まる。

「小さい家」この言葉から想像するのは、色々と我慢してサイズダウンを図った箱のような家かもしれません。そのイメージをばっさりと裏切る佇まいのこの家には、玄関のシューズクロークをはじめ、畳の部屋やパントリー、吹き抜けまであって室内は広々、欲しい機能がこぼさず集約されています。それでいて延べ床面積が37坪とコンパクトな理由は、既成概念を解くことにありました。まず、何LDKという間取りと数字に捕らわれた考え方をやめてみる。それはつまり用途を限定した場所をつくらないということ。空間を壁で仕切らず、複数の使い道のある小さな居心地の良い場所をたくさん設ける。そしてその場所同士が様々な組み合わせで繋がることによって、空間の価値が何倍にも広がります。例えば階段。その脇の本棚の本を手に腰を掛けるとそこは階段図書館に。さらにダイニングテーブルでお茶を飲む人やソファでテレビを見る人と同じ目線で会話を始めると、その三点で囲むスペースがリビングになります。このように、家中のあらゆる場所に段差や家具を利用した集いの軌道を幾重にも仕掛け、長く使い込むことを前提とした柔軟な設計で空間を徹底的に使いたおす。それを可能にする良質で機能とデザインに優れたいい道具のような住まいがこの小さな木の家。別々の場所にいながら、ちょうどいい間合いで会話が成り立つこともまた、この計画の必然なのです。