経年美化を楽しみたい

シンプルで、機能的で、日本家屋にも添う。
繊細でありながら大きな懐を感じさせるヴィンテージ家具。
何十年たっても古びない質感、そして存在感。
Hさんご夫妻はそれを住まいにも求めた。

　Hさん宅は、ご主人のご実家の敷地内に建てられたもの。長女の小学校入学を機に新築、引越を決めた。間口が20m、奥行きが7mという細長い敷地であるため、家の中央に玄関を設け、向かって左側がキッチンやリビング。右側には駐車場と直結した土間収納と二階へ上がる階段という間取りで、片流れの屋根が印象的な潔いデザインだ。
　周囲を川や田畑に囲まれた環境のなかに何ら違和感なく、それでいて個性を放っているのは、外観の色の影響が大きい。「白や黒といった外観も考えたんですが、最初からこういう色にして、よごれが目立たないようにしたんです」と笑うご主人。イメージしたのは軍用車両にも使われているような濃いモスグリーン、これがなんとも渋くてかっこいい。家全体を継ぎ目なく塗りひとつの箱のように見せたこともこだわりだ。
　Hさんご夫妻はふたりとも幼少期は日本家屋で育った。軒が深くて少し薄暗く、装飾や色目の少ない直線的な空間。開口部から室内には静かな風がゆったりと流れる…。ふたりの住まいにはこうした日本的な空間もイメージのひとつにあった。
　また銘建スタッフとの打ち合わせで活躍したのが、ふたりが所有している「アアルトの住宅」「ポール・ケアホルム邸」「グンログソン邸」といった建築物やインテリアの写真集。いずれも北欧に今も残る有名な建築物である。日本とどこか共通した精神性をもつ北欧の建物を参考にしながら、日本的な佇まいを残すシンプルで質感のある家造りを実現した。