簡素だけれども、
自分でまかなう豊かさ

鄙びた里の風景を見はるかす、なだらかな丘の途中。生い茂る木々に囲まれて、手織り作家・渡辺洋子さんのアトリエ兼住居がありました。築25年というその家は、ひとりの暮らしに充分な簡潔きわまりないたたずまい。横板張りの外観は、庭先に積んであるストーブ用の薪などの姿も手伝って、小さなロッジのような印象です。
「お金がなかったのよ。借金したくなかったから、手元にあるだけの予算でって言ったら、こうなるしかないでしょ（笑）。でもスウェーデンで暮らした経験から、風景と調和しない日本の家の感じが好みでなかったし、いわゆる新建材は使いたくないという思いも強かった。他にも外壁をベンガラで塗りたいとか、屋根裏部屋がほしいとか、いろんな要望をファイルにして出しました。
芳原建設さんにお願いしたのは当時の家の近くで知っていたし“まじめなところよ” と友人にも聞いていたので。びっくりするような予算だったのに、本当によく建ててくれたと思います。今も感謝してるんですよ」。
「ずっと大阪で福祉の仕事をしていたのですが、40歳を過ぎてから思い立ち、ひとりでスウェーデンへ渡りました。機織りを学んだのは、これなら言葉がわからなくてもできるかなと思ったから（笑）。なるようになるという気持ちで飛び込んだスウェーデンですが、そこでの暮らしは私にとても大きな影響を与えてくれました。