住まいのデザインとは
「理由」から「答え」を導き出すこと

「依頼主からの要望は多ければ多いほどいい。僕らはその願いをさらに先回りして形にするだけ」飄々と語る設計者と、あふれる夢を抱えた一組の家族との出会いが、また一つ、美しく快適な家を生み出した。

一目見て、記憶に残る家とそうでない家がある。全体的にきれいにバランスよくまとめられた家が、必ずしも「美しい家」として印象に残るとは限らない。むしろ、住まい手の「ここだけは譲れない」という想いが、否が応にも前面に押し出されているような家こそ、家そのものが生き生きと命を宿し、そこに住む人をも輝かせる力を有することがある。
今回訪ねたSさん宅もまさに、住まい手の「ここだけは」というあふれる想いを、つくり手ががっちりと受け止め、最上の形へと導いた一つの幸福な例であることは間違いない。
なんといっても圧巻なのは、家の中央で主役を張るキッチンの存在。キッチンを暮らしの真ん中に置くことは、Sさんの奥様にとって住まいづくりの最大のポイントだった。「実家がペンションをしていたので、いつも厨房が生活の中心にありました。キッチンというより“厨房”。そこから家中を見渡すことができ、食べ
ることはもちろん、くつろいだり、子どもたちが絵を描いたり宿題をしたり。一日の大半を過ごす場所として、私にとっても家族にとっても居心地のよい場所にしたかった」と話す奥様。