少しだけ、ていねいに暮らしてみたくなる

リビングナインの家はいつも、設計者の脳裏にふと浮かんでくる風景のドローイングから始まります。長い北面を道路に接する敷地ゆえ、南に中庭を囲むL字型がプランの軸。元々干拓地であったというこの地の風土も相まって、そこには「水門」のイメージがあったそう。水の通り抜ける開かれた水門のように、無機質なフォルムのビルトインガレージが、内と外とをゆるやかに分かちます。
ガレージから屋内へと入るエントランスは、この家においてもっとも大切な場所。万成石の敷かれたドアの前に立つと、この空間に掛けられた真摯な思いと手間ひまが「気」となって伝わってきて、思わず居住まいが正されるようです。「家の佇まいは、住む人の佇まいを表す」という理念のもと、住まいと、家族と、この先互いに高め合いながら、ともに育っていくのです。

ご夫婦は共働きで、日中ほとんど家にいることがないという暮らし。そのため昼間の明るさよりも、夜の落ち着きが大切にされました。ほの暗いほどに灯りを抑えた空間は、あたたかく静かな団らんのひとときをつくります。リビング、キッチンともに大きな収納を備え、雑然としがちな部分をすべて隠してしまえるのも、貴重なオフタイムを安らかに過ごすための配慮。シンプルに徹した内装は、これから家族の歴史を塗り重ねていくキャンバスです。

床にゴロリが気持ちいい、カーペット敷きのリビング。穏やかなアイボリーの塗り壁は、まるで映画のスクリーンのように陽の光を映り込ませ、時間の経過とともに移り変わる色味を楽しませてくれます。朝は特に、東の高窓から入った朝日が天井に周り、部屋中が柔らかな光で満たされます。床に座れば、ちょうど目線の高さに開いた窓から、L字に面した寝室側の様子が伺え、室内にいながら我が家を外から眺めるというのは、なぜだか不思議といい気分です。住まう満足を改めて感じられ、深いくつろぎに包まれます。