塗り壁に、無垢の床に、
伸びやかな天井に、南欧の風が吹く

奥さまが好きな南欧風の住まい。「本物をつくれるのはここしかない」とアート・エフに依頼。「できるだけシンプルな形で」引き渡されたその家は、今も刻々と姿を変えている。

落ち着いた住宅街に佇むその家は、周囲の家々とはちょっと違うニュアンスを漂わせている。手仕事の温もりがある塗り壁に、重厚な木製ドア、アイアンのデコレーション。木製の飾り雨戸は既に、時を経たものだけが持つ美しさを見せる。I邸は、南フランスの素朴な民家が好きな奥さまと、愛妻を喜ばせようとDIYに励んだご主人のこだわりの結晶だ。「思い通りの家です。不満はひとつもありません」と語るご主人に、満足度の高い家を建てるアドバイスを聞いたところ「カミさんの言うことを聞く」と即答。隣では奥さまがころころと笑っている。家づくりを通していっそう深まった夫婦の信頼関係がそこにあった。
設計施工にあたったのは、同じ東区にあるアート・エフ。シンプルモダンから和モダンまで「オンリーワン」の家を世に送り出してきたビルダーだ。同社の斉藤広美さんは「南欧風の家というご依頼は初めて。打ち合わせをするうちにご夫婦の思いの強さに胸を打たれ、力が入りました。手抜きをしたくない、本物をつくりたいと強く思ったのです」と出会いを振り返る。今まで手がけたことのない建築様式、細部へのこだわりなど、目の前のハードルは高く険しかった。専門家の手も借り、ひとつひとつクリアしながらI邸は完成に近づく。引渡し前にはIさん一家が総出で子ども部屋の壁を塗り、床を塗った。こうしてできた家だが、実は未完成なのだという。さて、そのわけは？