住む人の最上級を目指したどこにもない家

いい住まい。それは、家族の価値観や暮らしと溶け合い、愛着を感じながら安心して快適に過ごせる場所だろう。そして大切なのは、その魅力が未来永劫に失われないこと。住宅寿命が20～30年といわれる現代の日本において、安藤建築事務所の取り組みは、一線を画すといっていいだろう。

安価で効率的な人工素材ではなく、無垢板や天然石、レンガやタイルなど本物の素材を大切にする同社。過度な自然素材の多用は、ともすれば垢抜けない野暮ったさにも繋がりがちだが、同社の雰囲気づくりは極めてシンプルかつ洗練されている。単なる見た目の印象を重視するのではなく、機能に基づいた必然的な美しさを目指しているからだろう。

外構に大量の薪がストックされたA邸。真っ白な外壁に、石張りのポーチ柱や真っ赤な軒先と雨どいのラインが絶妙なアクセントになっている。別荘地の歴史ある洋館にも、現代的なカフェにも見える個性的な佇まいだ。
設計テーマは、仕事場と生活空間が違和感なく両立する兼用住宅。空間の用途に応じて区分するのが常識かもしれないが、同社の発想は一味違う。

中庭を囲むように、玄関ホールから仕事場、ダイニングキッチン、リビング、和室と、仕切りのない大空間が一続きに並ぶ。それぞれのスペースが45度の角度で配置されているため、視覚的には独立した部屋としても機能。仕事をしながら家族の気配が感じられ、それでいて気兼ねなくビジネスの打ち合わせもできる絶妙の距離感だ。

吹き抜けを通じて2階とも繋がっていて、間仕切りも最小限。室内扉は、寝室や洗面脱衣室など3枚しかない。大空間の快適性を支えるのが、二重構造の分厚い断熱材とトリプルサッシだ。
真冬でも薪ストーブひとつあれば、家中どこでも温度差のない状態を保つという。